雪と珊瑚と/梨木 香歩
¥1,575
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梨木香歩さんの新刊を読んだ。
母性のない母親から育てられた主人公が若くして子供を産み、一人で育て、お惣菜カフェをやることを決めて現実的に生きていく話。
なんとなく話を忘れてるけど、吉本ばななの「キッチン」を思い出させるような気もするけれど、かなり現実的な場面がぐいぐいあった。
いつの間にかカフェをオープンしてなにげにうまくやっていくようなご都合のよいところはなく、カフェをやる資金を借りるためにどんなことが必要でどういう予算を組んで・・というすごく具体的なところを書いていて、これから何か夢を実現しようとしている人にもこういう現実的な部分がないと絶対実現はしないことを知らせることにもなる。
主人公の珊瑚が自分がこれをやりたいという思いの部分と商売として現実的にお金を稼ぐということのバランスをなんとかとろうとするあたりなどひじょーによくわかる。
カフェのメニューを決めるところもひとつひとつ自分の思いを形にしていく作業のひとつとして、グラウンディングされた夢実現物語として読むような感じ。
また、カフェの野菜メニューがおいしそうなこと。
レシピが具体的に出てくるので作りたい。
おいしい食事を食べるというのは本当に生きる基本であり、活力の元だと思う。
カフェをやりたいと思う人も多いと思うけど、うまく運営していくためにはかなり現実的にならないといけないということもこのお話を読むとわかる。
珊瑚は母親から食事を与えられずに育った。
だからこそ、食というものを与える仕事に魅力を感じた。
なんとなく自分にもあてはまるようなところがなくもない。
私は親はご飯は作ってくれたけど、料理が嫌いな母親だったもので、食に関してわりと不満がいつもあり、栄養学とか食に関したことを学んだり、関心をより持つようになった経緯がある。
食というのは「母性」と直結したところがあるように思う。
おいしいものを与えられると満足できる。
それはおいしいものではなく、愛情のエネルギーが入ったものでもある。
野菜を育てた人の愛情、料理を作った人の愛情。
それを自分のからだの中に取り入れる。なんと直接的なヒーリングだろう。
それを作る側も喜んで食べる人がいるとそのエネルギーをもらうことができる。
そうすればより愛情を入れられる。
珊瑚のように母親から受けたものを娘に同じようにさせない断ち切る力も必要で、いいものを循環させていくのは簡単なことではない。
夢を実現させること、現実的に生きていくこと・・それは今どちらも必要でどちらかをとるということではない。震災後そうした生き方を考えざるをえない人も少なくないかと思うけれど、そんなことも意識されて書かれたのかなと思った。
「西の魔女が死んだ」でも自分の意志で決めることを魔女修行の中に入れていたけど、この決断力こそいまもっとも日本人に必要だなと思う。