高野文子さんの「黄色い本」以来の新作。
しかし、彼女のオリジナルな物語の世界とは少し違う。
彼女が読んだ自然科学の本と作者を紹介するための漫画だ。
そのために気持ちをこめずに絵を描く練習をしたそう。
少し太い線のアメリカンコミックのような人物。
いつも彼女の作品の新しい視線に驚かされる。
高校生のときに「絶対安全剃刀」をおそらく100回は読んだのではないかと思うほど、読み倒した。
「田辺のつる」「うしろあたま」「玄関」など神作品だ。
短い物語の中に深く共感した。
これは天才のわざである。
しかし、彼女はあまり多く作品を発表しない。
ユリイカの高野文子特集で大友克洋との対談で、「もうマンガは無理ですよ」と言ってたので、なかなかもう描かないのかなあ、こんなに才能あるのに・・と思ってたけど、今年絵本も出ている。
やる気出してきたかな・・。描き続けてほしい作家さんだ。
さて、新作の「ドミトリーともきんす」
彼女の色づかいは独特で好きだ。「るきさん」は驚くことにすべてカラー漫画なのだ。あれも何度も読み返した。色の使い方、とくに「赤」がなかなかない色を出す。
この本の表紙の「赤」と「青」はやはり独特だ。
朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹の4人の学者を紹介している。
マキノ君は若くてかっこいい(笑)
『それではみなさん、ごめんそうらえ。』ですから(^▽^;)
興味を持ったのは雪の研究をされた中谷宇吉郎。
はじめて知った。
文章も素晴らしい。
「雪は天から送られた手紙である」というのだから、かなり空想的な人である。
本を読んでみたくなった。
紹介といっても高野さんでしかできない表現で描かれてあるのでもちろん高野文子ワールドは生きている。
このところ作家やクリエイターと表現されたものについて考えることがある。
よしもとばななや田口ランディなど自分のことをわりとオープンにしている作家もいれば、梨木香歩さんのように生年月日も顔写真も一切公開せず、黒子に徹することで物語の力を最大限に読み手のために使えるようにしている作家もいる。
ある意味、梨木さんのような方はセラピスト的でもある。
高野文子さんは顔写真もユリイカにあったり、個人的な話も少しあったりするけど、長く謎な感じの人であった。
あ、ちなみに高野文子特集のユリイカには梨木香歩さんの文章も寄せられています。
漫画は小説よりもずっと空想的で、作者をあまり感じることは少ないけれど、気持ちをいれずに描いたという登場人物はかなり新しい試みではないかと思う。
「自分が出ない絵を描きたい」とユリイカの対談で言っていたけど、
だからこそ、毎回描き方を考えてる感じもある。
そこをいつも考えている漫画家さんって珍しい。
そしてまた繰り返し彼女の作品を読むことになるかな。